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和歌山地方裁判所 昭和26年(ワ)363号 判決

原告 加茂か免 外二名

被告 佐本藤三郎

主文

原告等の請求を棄却する。

訴訟費用は原告等の連帯負担とする。

事実

原告等訴訟代理人は「被告は原告等に対し各金五万五百三十三円三十三銭及びこれに対する昭和二十六年八月一日より完済まで年六分の金員を支払うべし、訴訟費用は被告の負担とする」との判決並びに保証を条件とする仮執行の宣言を求め、その請求の原因として、「訴外亡加茂玄之助はその生存中豊歳商会という商号を以て肥料販売業を営んでいたが、昭和二十六年七月十日被告に対し代金は現品引渡と同時に支払を受けることと定め、訴外神島化学工業株式会社製品である完全かみしま肥料二百五十叺を一叺金八百円計金二十万円で売渡したところ、被告は昭和二十六年六月中その内金として金八千四百円を支払い(同日受領したのは金一万円であるが、そのうち金千六百円は同年二月三日売渡にかかる同会社製品完全かみしま肥料及び特製かみしま肥料各一叺の代金として支払を受けた)、さらに同年七月中同内金として金四万円を支払つたが、残金十五万一千六百円は未だこれが支払をしない。加茂玄之助は同年十月二十五日死亡し、原告加茂か免はその妻として、原告加茂制子、同加茂彰夫はその子(原告制子は昭和十八年九月二十三日、同彰夫は昭和十九年七月二十日いずれも加茂玄之助及び妻原告か免と養子縁組をした)として右死亡によりその相続人となつたから被告に対し相続分に応じ各金五万五百三十三円三十三銭及びこれに対する前期最後の弁済を受けた日の後である昭和二十六年八月一日より完済まで商法所定年六分の遅延損害金の支払を求めるため本訴に及んだ」と陳述し、被告主張の商慣習を否認した。〈立証省略〉

被告訴訟代理人は主文第一項と同旨の判決を求め、答弁として、「原告等の主張事実中、豊歳商会が訴外亡加茂玄之助の商号であつたことは否認する。右商会は同人生存中同人及び訴外粉生義夫、藪中定吉、樋口美佐一の共同出資により昭和二十六年頃成立したもので紛生義夫がその代表者となつていたのであり、被告は原告主張の肥料を右商会の斡旋に基き直接訴外互洋貿易株式会社に注文し同会社より買受けたのであるから、原告等に対しこれが代金を支払うべき義務がない。なお、右紛生義夫に同代金の一部を支払つたことはあるが、それは互洋貿易株式会社より同人に支払うべき旨の依頼があつたので右支払をなしたまでである」と述べた。〈立証省略〉

理由

原告加茂か免が訴外亡加茂玄之助の妻であり、原告加茂制子が昭和十八年九月二十三日、原告加茂彰夫が昭和十九年七月二十日いずれも加茂玄之助とその妻原告加茂か免の養子となり、加茂玄之助が昭和二十六年十月二十五日に死亡し原告等三名がその相続人となつたことは被告の明らかに争わないところである。

当事者間成立に争いのない甲第一号証、乙第一、二号証、証人樋口美佐一の証言により成立を認める甲第九、十三、十四号証に証人山下文次郎、藪中定吉、樋口美佐一の各証言及び被告本人尋問の結果(後記措信しない部分を除く)を綜合すると、被告は同年二月五日訴外樋口美佐一を通じ近く結成さるべき豊歳商会に対し訴外神島化学工業株式会社製品完全かみしま肥料二百五十叺を代金は荷着六十日後支払うこととして注文し右結成後同商会は訴外互洋貿易株式会社との間にさらに右肥料を目的とする売買契約をなし同会社を介して同年七月十日訴外神島化学工業株式会社より被告宛にこれを送付させ豊歳商会より右互洋貿易株式会社に対してはすでに右代金の支払を了したことが認められるのであつて、被告本人尋問の結果中右認定に反する趣旨の部分は前記各証に照し措信できず、右認定の事実によると被告は豊歳商会より右肥料を買受けたものというべきである。ところで原告等は同商会が加茂玄之助の商号であつたと主張するのであるが、前顕甲第十三、十四号証に証人樋口美佐一、藪中定吉(後記措信しない部分を除く)、出口学の証言及び被告本人尋問の結果(前記措信しない部分を除く)を綜合すると、加茂玄之助、樋口美佐一、藪中定吉、粉生義夫の四名は昭和二十六年四月二十三日将来会社組織に変更することとして、一まず、加茂玄之助はその調達にかかる金七十万円を出資し、粉生義夫は肥料販売会社に対する同人の信用を、藪中定吉及び樋口美佐一は各労務をそれぞれ出資すること、粉生義夫を肥料買入れに関する、加茂玄之助を肥料販売に関する各業務執行者とすること、利益の配分は決算の上であらためて協議決定することと定めて肥料販売を目的とする事業をなす旨の契約を締結し、豊歳商会は右契約により成立した団体に付せられた名称である事実、その団体は加茂玄之助の死亡後である同年十一月二十四日解散することとなり前記四名の負担すべき各損失分担額を定めた事実が認められ、証人藪中定吉、笠熊男の証言中右認定に反する趣旨の部分は右各証に照し措信しがたい。そうすると、前記四名間の契約は右認定の内容を有する組合契約だと解すべく、豊歳商会はこれにより成立した組合の名称だというべきであるから、被告に対する豊歳商会の前記代金債権はその組合債権といわねばならぬところ、加茂玄之助は前記死亡の日に右組合を脱退したわけである。従つて豊歳商会の爾余の組合員である前記三名が右解散に伴い共同して又は清算人を選任して被告に対し右代金請求訴訟を提起するならば格別本件におけるが如く如何に組合の業務執行者たりし者の相続人なればとて特段の事由がない限り右代金債権を被相続人自身の債権だとし相続によりこれを承継したとしてその請求訴訟をなすことは所謂当事者適格を欠くものといわねばならない。結局死亡した組合員の相続人である本訴原告等としては被相続人の死亡即ち脱退当時においてその出資額に応じ民法第六百八十一条の計算に従い組合に利益あるときはその払戻を請求し、又損失あればこれを負担すべきこととなるにすぎないわけである。右の理は組合契約が組合員相互の信頼関係を基礎とするものであり、組合債権は組合財産として組合員全員がその主体となるべき特殊な共有関係に立つもので清算前にこれが分割を求め得ない点にかんがみるとき自ら明白であるというべく、さらに本件において前認定にかかる損失額分担の定めは組合員全員の合意による本件組合債権たる代金債権の分割と解するを得ない。

そうすると、亡加茂玄之助が個人として被告に対し本件完全かみしま肥料二百五十叺を売渡したことを理由とする原告等の本訴請求は結局その立証なきに帰し爾余の点について判断するまでもなく全部失当として棄却すべく、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第九十五条、第八十九条、第九十三条を適用し主文のとおり判決する。

(裁判官 嘉根博正)

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